第1章 - 最少手数競技入門 by Sebastiano Tronto 第三版
既成概念にとらわれずに考える (Think Outside the Box)
あなたのメイン解法が何であれ、その一つの解法の知識だけで解こうとするのはFMCにおいて最悪のやり方です。どんなときも一つの解法/メソッドに限定してはいけません。 FMCでは、あらゆる状況を活用するようにしましょう。
たとえば、あなたが2x3x3ブロックを作ったとしましょう。ここからどうソルブを勧めていくかには、いくつもの可能性があります。後の「クロス」エッジを揃えてからCFOPにおけるF2Lをやっても構いません。Petrusのようにエッジの向きを揃えもよいですし、FreeFOPやHeiseを使ってもっと自由にブロックを作ってもよいでしょう。どの解法を使ってもよい結果になるでしょう。なので、最もよいやり方は、使える解法を全て使って解いてしまうということです。(全部でなくてもよいですが、知っていることをなるべく多く使いましょう)
発想を柔軟にして「既成概念にとらわれず」に考えるには、少し逆説的ですが、まず多くの既成概念を知ることが最良の方法です。つまり、多くの解法を学びましょう。
この章では、FMCにおける最も有益(だと私が考える)な解法について簡単に説明します。
解法の開発された歴史やスピードソルブにおける利点/欠点については話しません。それぞれの解法について、オンラインで参照できるチュートリアルのリンクをつけますが、Googleやspeedsolving.comなどでさらなる情報を調べることをお勧めします。speedsolving.comのフォーラムにある「初心者向けスピード解法の選び方ガイド(Beginner’s Guide to Choosing a Speedsolving Method)」はよく使われている4つの解法について知るよいきっかけになるでしょう。(スピード解法について考えるなら、という注意書きが付きます)
ここでは、以下の4つの解法についてそれぞれ書きます。
- Petrus
- Roux
- ZZ
- CFOP
1.1 Petrus
Petrusのステップは次のようなものです。
- 2x2x2ブロックを作る
- 2x2x2ブロックを2x2x3ブロックに拡張する
- エッジの向きを揃える
- 最初の二層を揃える(F2L)
- Last Layer(LL)を揃える (本来は3つのステップに分割されています)
ブロックビルディング1のスキルを高めることは、FMCの上達のために必須のものです。 Petrusを学ぶことでこのスキルが上達するでしょう。ステップ1とステップ2の解き方を効率よく学ぶためには、常にブロックの作り方をいくつもを探さなければなりません。つまり、熟練のキューバーのソルブを見て、そのリコンストラクションから学ぶことが非常に役に立ちます。 熟練者でれば、ほとんど常に最適な2x2x2ブロックを見つけることができるので、あなたの解答と(コンピュータで探索した)最適な解法2を比較してみること役に立つでしょう。
ステップ3では、エッジがキューブのどこに位置しているかに関係なく、エッジの方向を認識する手法を学ぶことができます。エッジが反転している状態はFMCをやる上で最悪のものですから、これもまた重要なスキルになります。このステップでは、ZZのほうがPetrusよりもわかりやすいかもしれません。
Last Layerのアルゴリズムを全て学ぶ必要はありません。他のメソッドについても同じです。次の章ではどのようにソルブを前に進めればいいのかを説明しますが、この時点では「Last Layer」を処理するステップは最少手数競技のソルブにおいてはあまり利用されないということを覚えておいてください。
Lars Petrus Website: http://lar5.com/cube/
1.2 Roux
Rouxのステップは次のようなものです。
- 3x2x1ブロック(FB, First Block)を作る
- 最初のブロックの反対側に3x2x1ブロックをもう一つ作る (SB, Second Block)
- LLのコーナーを揃える。M列を気にする必要はない (CMLL)
- 残りの6つのエッジを揃える (LSE, Last Six Edge)
Petrusはブロックビルディングを学ぶには素晴らしい解法ですが、Petrusだけを使うというのは間違いです。あわせてRouxのブロックビルディング(特に最初の2つのステップ、あわせてF2Bと呼ぶ)を学ぶことで、スキルが完成に近づくでしょう。また、この解法では熟練のキューバーの解法から学ぶことが多くあります。
PetrusのLast Layerについて書いたこと、Rouxのステップ3でもまったく同じです。ステップ4ではこの弊害を除くことができますが、Mのような中層回転は全て2手としてカウントされることは忘れないでください!(少なくとも、Rouxの標準的なLSEのやりかたは避けましょう。つまり、MとUだけで解くやりかたです)
- Waffle’s Roux Tutorial: http://wafflelikescubes.webs.com/
- Kian Mansour’s Roux Tutorial: https://sites.google.com/view/kianroux/home
訳注:
実際の最少手数競技においては、解答用紙にM、S、Eの中層回転(スライスムーブ)の記号を書くことは認められていません。規則12aに定義されている3x3x3の回転記号のみを使うようにしましょう。ここでは「RouxメソッドのやりかたでM列を使う(解答用紙にはR L’のように書く)と2手としてカウントされ、手数が多くなりがちになるので避けたほうがよいですよ」ということを言っています。
ただし、後述するように、スライスインサーション(フリースライス)という手法によってこのデメリットを解消することもできます。
1.3. ZZ
ZZのステップは次のようなものです。
- EOLine(全てのエッジの向きを合わせて、DFとDBに置くことで、キューブをRLU回転だけで解けるようにする)
- F2L
- Last Layer
前述のように、エッジオリエンテーション(EO)を認識して解くことは非常に有益なスキルであり、ZZは間違いなくこれを学ぶ最良の方法でしょう。「エッジの向きを揃える」というのは、「ブロックビルディング」よりも抽象的な概念ですから、最初は難しく感じるでしょう。しかし、パニックにならないでください。練習すれば徐々に簡単になっていきます!
ステップ2はPetrusのステップ4と同じものですが、R面とL面に同時にブロックを作らなければなりません3。これをやることで、さらにブロックビルディングのスキルが高まるでしょう。
1.4. CFOPとFreeFOP
古典的なCFOPのステップは次のようなものです。
- クロスを作る
- 4つのコーナーとエッジのペアを挿入する
- OLL (Orient Last Layer)
- PLL (Permute Last Layer)
古典的なCFOPはFMC向きのあまりよい解法ではないと考えられています。しかし、コーナーとエッジのペアを挿入するときに、いくつかの方法を使うということを知っておくと役に立つことがあります。
FreeFOPでは、最初の二つのステップは「自由な」ブロックビルディングF2Lに変わります。
何にせよ、スキップができない限り、Last LayerをOLLとPLLで解くことはまったくおすすめできない方法です。
Badmephisto’s Tutorial: http://badmephisto.com/
1.5 キーホールF2L
キーホールは厳密にはキューブの解法ではなく、最初の二段を解くためのテクニックです。LBL(Layer by Layer)からCFOPの中間にあたる解法として位置づけられています。ステップは次のようなものです。
- クロス
- 1段目に3つのコーナーを配置する
- 3つの中層エッジをインサートする。「自由に」コーナースロットを使う
- コーナーとエッジのペアをインサートする。CFOPやLBLと同様
最初の2ステップをブロックビルディングに置き換えることとができます。また、中層のエッジも同時に揃えることで効率化することもできるでしょう。クロスと3つの中層エッジを揃えてから、3つのコーナーを「自由な」エッジを使って揃えるというバリエーションもあります。
非常にシンプルですが、この解法はFMCにおいてはとても役に立ちます。
1.6 Heise
- 2x2x1の「四角」を作る
- 「四角」を揃えてエッジを合わせることで、F2L-1の状態を作る。
- 残った5つのエッジと2つのコーナーを揃える
- 最後の3つのコーナーをコミュテータで揃える
もしあなたが熟練者のアドバイスを無視して、一つの解法だけを使ってFMCをやりたいというなら、Heiseを選ぶのがよいでしょう。この解法を一直線4に使うだけでも平均して40手以下で解くことができるでしょう。非常に極端な解法ですが、同時に極めて効率的です。
最初の二つのステップは奇妙ですが、F2L-1 5 を作ってから、全てのエッジの向きを揃えるという点では効率的なやり方です。FMCの基本である「何も制限するな」「様々な状況を活用せよ」というコンセプトに完全に沿っており、ブロックを考えうる最高の方法で作ることができます。
三つ目のステップは複雑ですが、F2Lを完成させてLast Layerのアルゴリズムをやるよりずっと効率的です。これを練習することで、すでにたくさんのブロックが作られて使える動きが制限されているときでも、ブロックを作って動かすことができる能力が得られるでしょう。(同時に、このステップは非常に難しい理由でもあります)
最後のステップではコミュテータを使います。FMCにおいては、インサーションが使えるようになるということです。(コミュテータとインサーションについては、次の章で説明します)
Heise method’s page on Ryan Heise’s website: http://www.ryanheise.com/cube/heise_method.html
1.7 何をどうやって学ぶか
当たり前のことですが、ここに書いたすべての解法を覚えて速くなることはゴールではありません。スピード解法でキューブを解くことはいくらか助けになることもありますし、それ自体が楽しいものです。しかし、ここではスピードは気にしません。ゴールはできるだけ短い手順でキューブを解くことですから、効率的になるよう努めましょう。
Color Neutral (CN)6であることも大切なことですし、「不一致ブロック(Non Matching Blocks)」(疑似ブロック、Pseudo-block)7について取り組むのも役に立つでしょう。
しかし、スピード解法と最少手数競技用の解法の大きな違いは、FMCではいくつもの異なる可能性を同時に試すことができるということです。たとえばPetrusにおいては、2x2x3ブロックを作ったあとに6つの悪いエッジ(Bad edge)が残ったとき、最初から別のブロックを作り始めることもできますし、ブロックの作り方を途中で少し変えて状況をよい方向に持っていくこともできます。8
それぞれの解法について少しだけアドバイスを書きます。
1.7.1 Petrus
- 2x2x2ブロックの完成後、拡張する方向は3通りあります。全ての場合を考えましょう!
- 2x2x2ブロックを作ってからやるよりも、2x2x3ブロックを直接作ってしまいましょう
- ステップ4では「不一致ブロック」を作ってみましょう
- ステップ4ではLast Layerをうまく変化させて簡単なケースを引きましょう(Heise Styleのラッキーケースでもよい)
1.7.2 Roux
- 二つのブロックを同時に作ってみましょう
- 不一致ブロックを作ってみましょう
- SBを作るときにCMLLへの影響を考慮してみましょう。そして、CMLLのLSEへの影響を考慮してみましょう
1.7.3 ZZ
- エッジの向き(EO)を揃えたあと、「直線(Line)」を作らないほうがよいです。EOを壊さないように、直接ブロックビルディングをしましょう。直線を最初に作ること(ラインファースト)と左右のブロックを作ることの違いは、CFOPでクロス+F2LをやることとFreeFOPの違いと同じものです。
- エッジの向きを揃えたら、R、L、U、Dだけでキューブを揃えられる状態になったということです。F2Lをどんな向きからでもやることができます。
- PetrusやRouxと同じように、不一致ブロックを作ってみましょう。また、F2Lの途中ででLast Layerへの影響を考慮してみましょう。
1.7.4 CFOP/FreeFOP
- 定義によって、少なくともCFOPはFreeFOPの特殊なケースですから、FreeFOPはCFOPよりよいものです。 少なくともXCross9を作ってみましょう
- 「4つのエッジが反転したケース」を避けつつ、Last Layerのエッジの向きに影響を与えてみましょう。いくつかのZBF2Lアルゴリズム10が役に立ちますが、これを暗記する前にどういう仕組みで機能しているのかを学びましょう。
- 最適なペアのインサーションアルゴリズムはあまり知られていません。これを研究しましょう。繰り返しますが、単に学ぶよりも仕組みを理解してみましょう。
- 「マルチスロット」を試してみましょう。これは複数のペアを同時に入れるということです。最も簡単なケースは、D面のムーブをセットアップとして使う場合です。(例:
D R U R' D'
)このテクニックのアルゴリズムはオンラインで閲覧できますが、「自由に」やってみることをおすすめします。たとえば、次のソルブ例で私が二つ目、三つ目、四つ目のペアをどのようにインサートしたかをご覧ください。: https://www. speedsolving.com/forum/threads/the-3x3x3-example-solve-thread.14345/page-238#post-1013053Next: D2 F2 U’ B2 D’ B2 D2 F2 L2 F2 U’ B’ D2 R2 B2 R’ D’ B L2 F R
こちらをどうぞ、CFOPers!
x2
B2 D2 B’ D’ M D’
R F U F’ R’
U R2 B’ R’ U R’ U2 R U2 R’ U B
R U Lw’ D’ R D B’ D’ R’ D
R2 B E B2 E’ B R2
-
ブロックビルディングとは、複数のピースからブロックを作り、つなげるテクニックのことです。CFOPにおけるF2Lとは大きく違うものと見なされがちですが、F2Lも一種のブロックビルディングと見なすことができます。対比すべきものとしては、エッジオリエンテーション(EO、PetrusやZZで用いられる)や「コーナーファースト」、アルゴリズムやコミュテータの利用などがあります。これらのテクニックは全て本書で説明されます。 ↩
-
たとえば、HARCSというは無料で利用できます。 https://www.speedsolving.com/forum/threads/ ↩
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スピード解法では、ブロックを一つずつ揃えていくほうが、人間工学に叶った動きになるため、望ましいです。しかし、FMCにおいてこれは当てはまりません。効率性(つまり、手数)だけを気にするべきです! ↩
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ここでいう「一直線に」(Linear)解くとは、FMCにおいては別の可能性を考えたり、キャンセル/やり直しを考えないで解くことを言います。 ↩
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F2L-1とはF2Lの完成状態から、コーナーとエッジのペアを一つ欠く状態を言います。 ↩
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Color Neutralとはキューブをどの色からスタートしても解くことができることを言います。たとえば、CFOPのクロス色がどの色でもできる、あるいはPetrusの2x2x2ブロックを8つあるパタンからどれでもできるということです。 ↩
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不一致ブロックは、特にFMCにおいて「疑似ブロック」(Pseudo-block)と呼ばれることがあります。これはRouxやZZ、Heiseにおいて役に立つテクニックですが、他の解法でも使うことができます。疑似ブロックは、作る必要があるものとは異なるブロックで構築されますが、同じ「スロット」に配置されます。たとえば、Rouxにおいては、3x2x1のSB(Second Block)はFBの反対側にある4つのいずれかのブロックです。このテクニックはpremoveと組み合わせることで非常に強力なツールになります。詳細は第三章で説明します。 ↩
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現在のステップで工夫することで次のステップに何らかの影響をもたらすのはよい習慣です。この点については後の章でまた書きます。 ↩
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XCrossとは、クロスと最初のペアを同時に作ることです。2x2x2ブロックと2つのエッジを同時に揃えることと見なすこともできます。 ↩
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訳注。ZBF2LはEOLS (Edge Orientation Last Slot)とも呼ばれます。「F2Lの4つ目の手順を調節することでEOを同時に処理し、F2L終了時に必ず上面に十字が出来るようにするというSubstepです。VHLSとは違い、IT化の時点で手順を変える場合もあるというのが特徴です。」(CubeVoyageより) ↩