序文 - 最少手数競技入門 by Sebastiano Tronto 第三版

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第三版への序文 (Preface to the Third Edition)

昨年(2019年)はFMCにとって素晴らしい年になりました。2年間、平均24.00手から更新されていなかった世界記録は、Reto Bubendorf (23.00), MarkやBoyanowski (22.33) や私自身(Sebastiano Tronto) (22.00)によって、2手も短くなりました。まとめると、2019年には11人が平均24手の壁を破ったのでした。単発世界記録は18手から16手になりました。

2019年は記録更新だけの年ではありません。Domino Reduction(ドミノリダクション、DR)が普及した年でもあります。1年前まで、この手法はトップ競技者によってたまに使われる程度で、継続的に使うのは難しいと考えられていました。しかし、よくあることですが、これがそこまで難しいものではないと気付いた人々がいて、誰にとっても簡単なものになりました。わずか数か月の間で、この手法は多くのトップ競技者がほとんどのソルブで使うようになるまで流行してきました。FMCの新時代が始まったのです。

するとこのチュートリアルはどうなるでしょう?第三版のチュートリアルは「新時代」に向けたものでしょうか?実はそうではありません。「旧時代」のチュートリアルの最後のアップデートだと思うかもしれません。いくつか新しく追加したいことがありましたが、最近の発展を踏まえたものは少しだけです。

このチュートリアルはFMCを学ぼうとする人にとっては素晴らしい出発点であり続けると思います。しかし、新しい手法が開発されていくにつれて、ここに記載されたトピックやその説明方法は陳腐化していくでしょう。願わくば、この文書を最新にものにアップデートしつづけて、数年後にも役に立つガイドであり続けるようにします。

変更点

前のバージョンから無数のタイポを修正し、多数の新しいことを加えました。.png形式の画像を.svgに入れ替えることにしたので、見た目がよくなっているはずです。

訳注:
翻訳版では独自にalg.cubing.netから取得したpng形式の画像を使っています。

付録にあったLast Layerのアルゴリズムは省き、単にテキストファイルへのリンクにしました。EOに関するセクションは第二章に移動し、第四章の残りと第三章をマージしました。

その他、次のようなセクションを追加しました。それ以外は軽微な変更だけです。

  • 2.4.6節、3.8節:エッジインサーションについて
  • 2.5.3節:Partial Domino Reductionについて
  • 3.4節:NISSを用いてよいEOを探す
  • 3.7.1節: 歪んだセンターとNISS (Skew centers and NISS)
  • 3.10節: 交換して短くする (Replace and shorten)
  • 付録C:Reto Bubendorfによる演習問題 (Some exercises by Reto Bubendorf).
  • 付録D:Domino Reduction概説

訳注:
翻訳版では独自にalg.cubing.netから取得したpng形式の画像を使っています。

第二版への序文 (Preface to the Second Edition)

数年の間、このチュートリアルの新しいバージョンを作ろうと考えていました。いくつか修正や追加の必要な点があり、また、私自身の考え方が変わったことによって変更すべき点などがありました。

LaTeXで書き直そうとも考えました。LaTexのドキュメントは見た目がとても良くなるからです。ただし、唯一の欠点は、そうしてしまうと翻訳が難しくなるということです。このチュートリアルが高く評価されており、多くの他言語に翻訳をしてくれて、世界中で読めるようになっていくことを非常に嬉しく思います。翻訳者の皆さんそれぞれにお礼を言いたいのですが、ほとんどの方の名前を忘れてしまいました。

ですが、第二版を作るのをずっと後回しにしていました。大きな理由は、時間がなかったことではなく、モチベーションが足りなかったことです。しかし、2017年にパリで行われた世界大会 1では、このチュートリアルについて感謝を言ってくださる方に多くお会いして、必要なモチベーションを得ることができました。全ての人が見返りを求めずにほかの人を助けている。このコミュニティの一員であることの素晴らしさを思い出して、私も再び「自分のやること」をやりたいと思いました。

初版からの変更点のほとんどは見た目に関することです。最初のものよりけっこう長くなっていることに気づくかもしれません。この違いは、画像と空白ページによるものがほとんどです。文章を並べ替えて、単語のミスを修正しました(私の英語力はこの3年で成長してます!)。いくつか新しいことも加えたかもしれません。

次のような点を追加しました。

  • 2.3.3節:「その他のエッジ3-cycle」(このケースについてはもっと書くことがありますが)
  • 2.4.8節:「3エッジとコーナー」 インサーションについて
  • 3.6節:「歪んだセンター(skew centers)」について
  • 付録:回転記号とLLアルゴリズム

ほかにやったのは、ソルブ例にいい感じのボックスをつけたことです。(下のほうをご覧ください)

主な理由は、この本を自己完結型にしたいと思ったからです。初版では多くのソルブが単にリンクされていただけでした。ハイパーリンクをつけていますが、脚注に完全なリンクもあわせて書いています。これにより、この本は電子機器と紙の両方で読めるようになっています。

パーツの色について話すことがありますが、配色は標準配色 2で、標準の向き(白がU、緑がF)でスクランブルすることを想定しています。

この第二版について言うことはこれぐらいです。次に進んでチュートリアルを楽しんでください!

本書について (About this Book)

この本は、WCA公式大会の公式競技のひとつである「最少手数競技(FMC、Fewest Moves Challenge)」と呼ばれる競技でよい結果を出すための指針となることを目的としています。もしあなたが世界キューブ協会 (World Cube Association) やスピードキューブの公式大会について知らないのであれば、次の章にあるイントロダクションを読んでみてください。

「最少手数競技」は、与えられたルービックキューブの状態(スクランブルされた状態)から、できる限り短い手数で解くものです。使えるのはいくつかのキューブ、ペン、そして紙だけです。コンピュータープログラムの利用は禁止されており、通常は時間制限があります。(WCA公式大会においては1時間、あるオンラインのものでは1週間など)

したがって、この本では一般的なアルゴリズムの説明はしません。一般的なアルゴリズムがFMCで役立たないということは、この本の残りの部分で繰り返し述べられており、次のようにまとめることができます。「たった一つのアプローチに限定することは、あまりにも窮屈!」

同様に、(短い)解法を生成するようなコンピュータープログラムについても言及しません。もしこのテーマに興味のある方は、www.jaapsch.netのコンピューターパズルについてのページを一読することをおすすめします。

前提条件

読者は(たとえ簡易LBLであったとしても)ルービックキューブの解き方を知っているものとします。さらに、通常のOBTM(外層ブロック手数)法の記法(イントロダクション内のリンク、付録Bを参照)と、基本的な用語(たとえば「2x2x2ブロック」)について知っていることが求められます。ただし、多くの専門用語は本文中で解説します。

ソルブ実例について

第二版からはいくつかのソルブ例を収録しています。これにより本書がもっと自己完結的なものになることを期待しています。これは次のような枠を作って表現します。

2C2E Insertion - Example

スクランブル: B' L' D2 R U F' U' L U2 D R2 U2 F B R2 B U2 B L2 B2 U2
B' F D2 //Pseudo 2x2x1 (3/3)
L' B * R2 //Pseudo 3x2x2 (3/6)
F2 D F' D2 F //Found using NISS (5/11)
R' D' R D2 F U2 //Found using NISS (6/17)
* = B2 L B L' B D2 F' R F D2 //2c2e insertion (9/26)

このソリューションの記述のなかでは、決してxy2などの「持ち替え記号」を使わずに書いていることがわかるでしょうか。解答を考えるときにキューブを持ち替えてはいけないということではありません。もし持ち替え記号を使わない記述がよくわからないなら、5.1節までスキップすることがオススメです。

謝辞

世界中のスピードキューブコミュニティに対して、どんな時もテクニックやメソッドをオープンに広めていることに感謝を申し上げたいです。これによって、誰もが(これまでに)見つかったすべてのことを自由に学ぶことができるようになります。このチュートリアルも同じように役に立つことを望みます。

あわせて感謝を申し上げたいのは、改善点を指摘してくれた全ての方です。間違いを指摘してくださったり、このチュートリアルを(古い版も含めて)翻訳してくださったりしました。いずれ忘れてしまうでしょうから、全ての方の名前を挙げるのは控えます。

この版では、visualcube3alg.cubing.net4を使いましたので、この2つのツールの作者であるConrad RiderとLucas Garronには、特に感謝を申し上げます。

免責事項

ご存じかもしれませんが、英語は私の母語ではありません。もし文章が下手だったり、間違いを見つけたりした場合、私にご連絡ください。 sebastiano.tronto [at] gmail [dot] com

訳注:
英語は翻訳者の母語でもありません! 本文の内容ではなく、翻訳のミスを見つけた場合は、私にご連絡ください!

公開場所

このチュートリアルはhttps://fmcsolves.cubing.net/fmc_tutorial_ENG.pdfで公開しています。新しい版がリリースされたときは、このリンクは自動的に更新されます。LaTexのソースファイルと画像は私のGitHubリポジトリにあります。:https: //github.com/sebastianotronto/fmctutorial

ライセンス

本ドキュメントはCreative Commons Attribution 4.0 License (CC BY 4.0)で提供されます。つまり、このドキュメントを再配布することができるだけでなく、自由に別の言語に翻訳してもよいということです!

訳注:
本翻訳も同様にCC BY 4.0で提供されます。

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  1. 訳注。World Rubik’s Cube Championship 2017のこと。2年に1回の頻度で開催されるルービックキューブの世界大会を指す。2017年はパリ(フランス)、2019年はメルボルン(オーストラリア)で開催された。 

  2. Western Color Scheme 

  3. http://cube.crider.co.uk/visualcube.php 

  4. https://alg.cubing.net