第5章 公式大会 - 最少手数競技入門 by Sebastiano Tronto 第三版

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公式大会 (In Competition)

5.1 解答の書き方(How to Write a Solution)

大会のときでも練習のときでも、解答は持ち替え記号なしで書くのがよいでしょう1これにはいくつもの理由があります。

  • 持ち替え記号を使うと解答を書き間違えやすい
  • 持ち替え記号があるとキャンセルが見つけにくい。 R z' U' のようなことをやるのはとんでもない手数のムダです! (これはキャンセルして0手になります)
  • ソルブ中にキューブを持ち替える場合、どの面がどこにあるかを常に意識しておかなければならない

ではどうやって持ち替え記号なしで解答を書いたらいいのでしょう? B面でPLLを回すのは厄介で難しいでしょう。しかし、簡単なやり方があるのです。標準配色(BOY配色)でいつもの向きでキューブを持ったときに、「白センターのある面は常にUだ」「緑はF」「黄色はD」と覚えておけばいいだけです。それぞれの面を回すとき、どの向きで持っていても関係なく「白面だからUだ」と書けばいいのです。これはそこまで難しくありませんが、覚えるためには「青(Blue)はB面」「赤(Red)はR面」と頭文字が同じ面から覚えていくといいでしょう。他の多くの言語でも同じように使えます。

訳注:
ここで著者が言っているヒントはインド・ヨーロッパ語族(英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語など)ならだいたい当てはまるものですが、日本語では役に立たないかもしれません。U面が白、F面が緑、という向きでなくてもよいですが、自分なりの覚え方を決めてみるといいでしょう。

5.2 バックアップ解答(Backup Solution)

大会のように時間制限がある環境でFMCをやるなら、あらかじめ「バックアップ解答」を作っておくことを身につけましょう。つまり、試技を始めてから早い段階(たとえば最初の30分以内)に見つけた解答で、最低限キューブを揃えることができるものを書いておきましょう。あまりよくないものでもよいです。どんなに手数がかかる解答でも、白紙で解答を出すよりはずっとよいです!

たとえば、平均35手が出そうなペースで進んでいるときに、20分考えて40手の解答を見つけたとしましょう。すると、残りの40分間は落ち着いた気持ちで取り組むことができるはずです。解答用紙にそのまま書き込んでも構いません。後で解答を変えたくなったら、バックアップ解答を消して新しいものを書き直せばいいだけですし、別の紙に書いて提出してしまうという手もあります。バックアップ解答を見つけるにはたくさんのアプローチがあります。

  • 自分で決めた制限時間 (たとえば35分)の中で、どんなに悪いものでも必ず解答を見つけて書くようにしましょう。私はやりませんが、もし制限時間ギリギリになっても解答用紙が空白であることが多いなら、やってみると役立つでしょう。
  • 偶然によい解答を見つけてしまったら、どこかにメモしておきましょう。いいスタートを切ってからもう一度スクランブルしていたらPLLスキップを見つけてしまった!ということもあるでしょう。
  • 私はバックアップ解答を準備することはあまりないです。代わりにバックアップ用のスケルトンを作っておきます。たとえば、28手以下を目指すとしましょう。このとき、3コーナーのスケルトン(24手)を見つけても、あまり使えないでしょうけれど、どこかにメモしておくようにします。制限時間まで残り10分になったとき、他によい解答を見つけられなかったら、このスケルトンを使ってインサートを探す、という風にします。3コーナーのインサートを1回やるだけなら、私はだいたい5分くらいしかかかりません。あなたのスピードにあわせて、制限時間までどれくらいになったら使うかを調整してみるといいでしょう。

よいバックアップ解答とはどういうものでしょう? これは、なんでもよいのです! 解答が書いてあればDNFよりは何でもよいものです。特に、現在の((公式大会の)FMC競技形式はMean of 3 (3回の試技の平均)という形式ですから、1回でもDNFをしてしまうと平均もDNFになってしまいます。

5.3 タイムマネジメント(Time Managment)

「試技の間の時間管理をどうするか?」というのはちょっと複雑なトピックです。私のアドバイスがどんな場合も必ず役立つとは言えません。このアドバイスは注意深く読んで使ってください。

実際、2019年の前半まで自分自身はとても時間管理が下手なほうだと思っていました。「大会形式の練習」をたくさんしたことでようやく上手になってきたと思います。残念ながら、時間管理のスキルを高めるには特別なテクニックはなく、「練習、練習、そして練習!」しかありません。

5.3.1 ひっかからないように(Don’t Get Stuck)

誰にでも起こることですが、大会ではどこかで長く詰まったり、次の手へのよいつながりを見つけられずに時間が経ってしまうことがあります。

「いまやっているところから続けていくとよい手順が見つかるかどうか」を即座に判断する能力があれば、他人の心の中を読み取る(ただしFMC中に限る)くらい役立つことでしょう! 本当に大したことではありませんが、私からのアドバイスは「どこかでひっかからないようにすること、止まらないようにすること」です。知っているすべての手法とテクニックを使っても何も見つからないとしたら、キューブをじっと見つめて「勝手に解ければいいのに」と考えるのは一旦やめましょう。少し戻って、別のやり方を色々試してみましょう。

5.3.2 全ての可能性を調べようとしない((Don’t) Explore Every Possibility)

このチュートリアルの初版では「全ての可能性を調べよう!」という名前の章でした。正反対に変わりましたね! しかし、前の版には今も役立つ内容が書いてあります。

あなたがコンピュータサイエンティストや数学者なら、全てのありうる解答を探索していくのは木探索(tree search)2のようなものだと説明するでしょう。

DFS(深さ優先探索) で「解答を見つけるまで次の分岐に行かない」のか、BFS(幅優先探索)で「全ての解答を並行して探索する」のか、その混合なのか、好みに応じて選択できます。たったひとつの部分解答から、多くの有望な分岐ができることも、何も生み出さないこともあります。そのため、私は決まったやり方は取りません。どの段階で枝刈りをするかを決めるのも重要です。つまり、有望ではない部分解答を切り捨てるということです。

では、なぜ章のタイトルを変えたのか? それは単純なことで、去年あることに気付いたからです。有望なスタートやいいつながりを決して見逃さないようにしようということに取りつかれていて、ソルブに対する考え方が変な方向(間違った方向!)に向かっていました。あるとき、非常に有望なスタートを切ってから、その先のつながりを探索するのをやめようとしました。代わりに、特定のスタートから始めてもあまりよくないかもしれないし後で捨てることになるかもしれないぞ、と自分に言い聞かせたのです。コンピュータサイエンスの用語で言えば、私は悪い分岐の枝刈りをしようとしすぎていて、最も実りある枝を探すのを怠っていたということです。

たとえば、それまではノーマルスクランブルと逆スクランブルの両方からEOとブロックビルディングを探していました。しかし今では、よいものが短時間で見つかったなら、ほかの可能性をチェックすることは後回しにしたり、やめてしまうことさえあります。

何年もの練習を経ていますが、部分解答のうち、どれが深く探索すべきものでどれ捨てるべきものなのかを判断する一番良い方法はわからないままです。あなた自身のやり方でこの問題を解決することができるようにするには、私にはこういった問題があることを伝えることしかできません。

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  1. エッジインサーションなどのステップでは、持ち替え記号や二層回し、スライスムーブなどを使うことも役立つ場合があります。しかし、解答を提出する前にはこれらの記号を削除することもできます。 

  2. 木構造 (データ構造)